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「赤い実」と食物繊維

フルーツが健康に良いということが改めて注目されるようになっています。An Apple A Day Keeps The Doctor Awayという西洋のことわざも、「一日一個のリンゴは医者いらず」などと訳されて広く知られるようになりました。米国ではこれをさらに進めて、More Color More Health (いろいろな色の野菜や果物を食べよう), The Five A Day (一日に5種類以上の果物と野菜を食べよう)をスローガンに、NCI(国立癌研究所)とCDC(疾病管理センター)という世界最大の研究機関が、ガン予防のキャンペーンをおこなっています。事実、このキャンペーンの効果によって、人口10万人あたりのガン発生率が減少に転じたと言われています。

「赤い実」と食物繊維1

さて、このように赤い実の、桃やリンゴなどが癌や高血圧、糖尿病などの成人病予防に有効であることは科学的に明らかになってきました。それでは、赤い実に含まれる何が病気の予防に働いているのでしょうか? 流行のポリフェノールなどの抗酸化物質、ビタミン類、有機酸、ミネラルなど様々な成分の関与が言われています。今回はまず、赤い実に含まれる代表選手のDietary Fiber (食物繊維)の働きなどについて、わかりやすく、しかし「赤い実の熟れる里」らしく専門的な知識もふくめて説明してみます。

「赤い実」と食物繊維2

食物繊維をたくさん含む食物は、いわれているような病気の予防効果を本当にもっているのでしょうか? 大腸ガン冠動脈性心臓疾患 (心臓に栄養を送る血管が動脈硬化で詰まってしまう病気)、糖尿病など様々な病気の予防と食物繊維をたくさん含む食物の摂取との関係が広く研究されました。その結果、食物繊維が便秘痔疾患憩室症 (腸に余計な穴ができて炎症を起こしてしまう病気。俗にいうモウチョウとい病気をイメージしてください)
の予防のみならず治療にも有効であることがわかりました。さらに、ペクチンなどの食物繊維は、血液のなかのコレステロール値を下げる効果をもっていることも科学的に証明されました。これらの研究の一部をこれから紹介していきましょう。

A. 食物繊維とはどんなもの?

1. 食物繊維の性質

食物繊維とは植物に含まれる繊維成分で、人間の腸管のなかの「消化酵素では分解されない」ものと理解するとよいでしょう。でも、消化酵素では分解されなくても、腸管のなかに棲む微生物 (よくいわれる善玉菌悪玉菌ですね)によって代謝される食物繊維もありますから、人間の「腸管では分解されない」というのは間違いです。余談ですが、ウシやウマなどの草食獣が植物繊維を栄養にできるのは、消化管のなかにそういう細菌を一杯飼っているからです。

2. 水溶性食物繊維

フールツをふくめた色々な植物が、ペクチン、ガム、粘液成分、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなど様々な繊維成分を含んでいます。ペクチンとガムは水溶性繊維(水に溶ける)といわれるもので、植物の細胞の中(細胞質)に存在しています。そしてフルーツや野菜は、この「水溶性食物繊維」を豊富に含んでいます。水溶性食物繊維は、食べ物がゆっくりと消化管のなかを移動するのを助けますが、大便の量を増やすということはありません。
水溶性繊維の代表選手ペクチンの働きについては、別項で詳しく説明します。

3. 不溶性食物繊維

一方、細胞の中ではなく細胞壁(細胞を取り囲んで守っているもの)に含まれている繊維、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどは水に溶けません(不溶性繊維)。このような繊維は水溶性繊維とは逆に、大便の量を増加させ、食物が速やかに消化管の中を通過することを助けるのです。不溶性繊維を栄養として充分にとるためには、穀類、その他に豆類や野菜をたくさん食べることが必要です。

ときどき粗繊維 (Crude Fiber)と食物繊維(Dietary Fiber)という言葉が混同されて使われていますが注意しましょう。粗繊維は主に家畜などのエサに用いられる言葉で、一般に全食物繊維中の1/7から1/2を占めると言われています。
また余談ですが、寒天 (植物ゼリー)も体によい食物繊維として昔から色々な食料に使われていました。寒天のあの“なめらか感”は、水溶性繊維であるアガロペクチンによるものです。そして寒天が水を含んでゼリー状に固まるのは、アガロースという不溶性繊維の働きによるものです。

B. 物繊維を食べるとどうして体によいのか?

1. 食物繊維は便秘や痔に効く

不溶性食物繊維は水に結合して、便を柔らかくするのと同時にその量を増やします。ですから不溶性繊維を含んだ食べ物をたべることは、便秘、痔、憩室症の予防や治療に効果的なのです。憩室症は腸の壁に小さな余計な穴というか袋のようなものができて、そこが炎症を起こし腹痛を感じる病気です。昔はこの病気のときは繊維の少ないものを食べるように言われていました。しかし今は逆で、炎症を和らげるために食物繊維を含んだものを食べることが勧められています。

2. 食物繊維はコレステロールを下げる

血液の中のコレステロールのレベルが低いと(200mg/dl以下が望ましい)、狭心症、心筋梗塞(心臓に栄養を血液を送る血管が、動脈硬化で詰まってしまい、心臓の組織が死んでしまう病気)などの冠動脈性心臓疾患(冠動脈とは心臓の組織に血液を送る血管のこと)のリスクが低いがわかっています。

人間の体は、血液の余分なコレステロールを肝臓で処理して、胆汁酸に姿を変えとして腸管に排出します。しかし、胆汁酸の多くは再び血液に吸収されてコレステロールに戻っていまいます。どうしてそんな・・・? それは、コレステロールと言うと悪の代名詞のようですが、生命の維持のためにとても重要なものだからです。そして、本来の人間の体は多量の脂肪を食べることを前提に作られていないからなのです。人類が発生した当時は、狩猟は大変な作業でした。現在のように簡単に動物性脂肪を摂取することなどできなかったため、人間の体は貴重なコレステロールを少しでも体に貯えようとする機能を本来もっている訳です。ですから、動物性脂肪を含んだものを食べ過ぎると高脂血症になる危険が高いのです。でも、現代の食生活で動物性脂肪を食べないなんて、ベジタリアンにでもなるしかない・・・

そこで食物繊維の出番がやってきます。「赤い実」に豊富に含まれるペクチンなどの可溶性植物繊維は胆汁酸に結合して、血液に再吸収されにくくしてしまうのです。結果として余分なコレステロールは食物繊維にくっついたままた、体の外に排泄されてしまいます。ペクチンは、胆汁酸だけでなく食物として摂取されたコレステロールも、腸管から吸収されにくいようにする働きをもっています。

ペクチンはコレステロールを体に吸収されにくくするだけではなく(血中総コレステロール中性脂肪を低下させる)、善玉コレステロール(HDL: 高密度リポ蛋白)と悪玉コレステロール(LDL:低比重リポ蛋白)のバランスを改善させる働きがあることが判りました。1997年にドイツでおこなわれた研究では、中年の高脂血症患者に90日間リンゴのペクチンを食べさせたところLDLが低下し、反対にHDLが増加することがわかりました。つまりペクチンは、善玉コレステロール悪玉コレステロールのバランスを健常人のものに近づける働きもあることが明らかになったのです。

3. ペクチンは善玉菌を増やす

最近、日本でおこなわれた研究で、ペクチンはコレステロールを下げるだけではなく、さまざまな健康によい働きをもっていることが判ってきました。

昔からリンゴにはプレバイオティックス効果(食物由来の成分が、胃や小腸で消化されないで大腸にそのまま到達して、有用細菌を増殖させる働き)があることが知られていました。
研究の結果、このリンゴのプレバイオティックス効果は、リンゴに含まれるペクチンが腸のなかの善玉菌の代表であるビフィダス菌(Bifidobacterium adolescentisBifidobacterium longum など、ヨーグルトなどに豊富にふくまれていて、長寿に貢献していることで知られる)などの有用細菌を、選択的に増殖させることによることが判ったのです。この働きを専門的には資化と呼びます。資化とは、細菌がある特定の化合物(ここではペクチン)を栄養源として生命活動をおこなうのに必要なエネルギーを得て、増殖する現象をいいます。

ぺクチンを食べ善玉菌が増える結果として、悪玉菌であるウエルシュ菌(Clostridium perflingens)などが減る効果を生み出します。ウエルシュ菌は重篤な食中毒の原因になる細菌です。またウエルシュ菌はオナラが臭い理由であるガスを発生しますし、そのガスの成分が大腸ガンを引き起こす誘引になると言われています。「一日一個のリンゴ」が大腸ガンのリスクを低下させる理由のひとつはここにあります。

4. ペクチンが善玉菌を増やす理由は?

ではどうしてペクチンが善玉菌のエネルギー源になるのでしょうか?少し専門的になりますが、「赤い実の熟れる里」はホンモノを知る人のためのHPですので、解説を加えておきましょう。

ペクチンはアラビナン、アラビノガラクタン、ポリガラクツロン酸なの「多糖類」からできています。多糖類とは、わかりやすく言えば砂糖の仲間のアラビノース、ガラクトース、フコースなどの「単糖」が一杯くっついてできたものです。単糖が2 — 3個あるいは数個くっついたものを「オリゴ糖」と呼びます(多糖類ほど一杯くっついていない)。お砂糖の仲間からできているのですから、当然、エネルギー源になりやすい訳です。

多糖類であるペクチンの構造の一部(専門的には側鎖といいます。木の枝のようなものと思ってください)には、アラビノースという単糖が3個以上くっついてできた「アラビノオリゴ糖」の側鎖がついています。食物として取り入れられたペクチンは、腸のなかでこのアラビノオリゴ糖の部分が切り取られます。そして、この切り取られたアラビノオリゴ糖が、善玉菌のビフィダス菌に選択的に取り込まれて、ビフィダス菌の増殖が促される、これがリンゴが善玉菌を増やす(プレバイオティックス効果)秘密だったのです。

C. 食物繊維も食べ過ぎにはご用心

1. バランスの良い食事が大切

食物繊維はたしかに健康によいものです。しかし、だからと言って食物繊維だけ食べればよいと言うものではありません。いちばん大切なのは「バランスのよい食事」であることを忘れないでください。食物繊維を食べ過ぎると、体に必要なカルシウムやマグネシウム、亜鉛、銅、鉄などの「ミネラルの吸収が妨げられる」ことが知られています。とくに子供でこの危険性が指摘されています。十代の成長期のひとが、食物繊維だけ食べてダイエットするなどと言うことは、くれぐれも慎んでください。

2. 食物繊維をどのくらい食べたらよいのか?

子供の場合「年齢プラス5グラム」が目安とされています。高脂血症の患者さんなどコレステロール値が高い人では「1日40グラム」食べることが勧められています。

ではどんなものを食べたらよいのでしょうか? たとえば普通サイズのリンゴ1個には約4gの食物繊維が、小さめのモモ1個には約1.6gが含まれています。「赤い実」は確かに良質の食物繊維の宝庫ですが、それだけでだけで食物繊維をとろうとする「リンゴダイエット」などはあまり勧められませんね。例えば豆類は半カップで9.3グラム、コーン半カップで4.7グラム、ブロッコリー半カップは3.5グラムなどという目安が報告されています。野菜や豆、穀物の「彩りのあるおかず」をご飯と一緒に食べて、デザートやおやつに甘いものを控え「赤い実」を食べるという、「バランスのよい食事」を心がけてください。リンゴやモモなどのフルーツが体によいのは、食物繊維だけが理由なのではありません。

3. 健康ダイエット

「バランスのよい食事」と一緒に実行される限りでは、食物繊維はたしかにダイエットの有力な手段です。まず食物繊維は人間が吸収できない「多糖類」ですから、ゼロカロリーと考えてよいでしょう。しかも、寒天やコンニャクを考えるとわかり易いのですが、水を吸収して膨らみますので、簡単に満腹感を得ることが出来ます。肥満で体重を減らしたいひとは、「食事の前にリンゴ一個まるかじり」は食べ過ぎ防止に有効ですね。勿論、「豆腐一丁」と組み合わせてやってください。

食物繊維をたくさん含む食べ物でダイエットをおこなう隠れた効果は、「よく噛む」ことなのです。よく噛むためには時間がかかりますから、短時間でガツガツと一杯食べる肥満の大敵を防ぐことができます。「食事の前にリンゴ一個まるかじり」はその意味で大変有効です。

食物繊維がダイエットや健康に有効なことは間違いありません。しかし、食物繊維にはまだまだ判らないことも多く、研究が続けられている最中です。その意味で安易な「サプリメント」で食物繊維を補給するのはいただけません。ジョギングをやり過ぎて関節を痛める中高年の多発と同じで、欧米式の「食物繊維ヒステリー」「ビタミンヒステリー」の仲間入りは止めましょう。食物繊維やビタミンはフルーツや野菜や穀物を普通に食べていれば、すなわち日本人の普通の食生活を送れば、問題なく補給できるのです。

「赤い実の熟れる里」の暮らしではどうかって? リンゴを摘みながら立ち食いして、昼は手打ちの蕎麦とキノコ汁、仕事が終われば枝豆と国産大豆の豆腐を肴にビールで汗を流す。こりゃ体に悪いわけありませんな、ウンコの量はちょっと多いようですが・・・誰だオーナーのオナラはそれでも臭いなどと告げ口する奴は!

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