ふくしまのりんご・ももの生産販売

赤い実の話

ホーム > 赤い実の話 > 果樹園研究 > 赤い実と抗酸化物質

赤い実と抗酸化物質

最近またワインブームのようです。赤ワインに豊富に含まれるポリフェノールには抗酸化作用(体の中の成分が酸化されるのを防ぐ作用)があり、動脈硬化・高血圧・心臓病などさまざまの成人病の予防によいと言われています。このワインと健康ブームがきっかけになって、これまでは専門家の間でだけ使われていた活性酸素抗酸化物質などという言葉もすっかり世間に知られるようになりました。

ところでリンゴやモモなどの赤い実にも、ポリフェノールなどの抗酸化物質が豊富に含まれ、皆さんの健康維持に一役かっています。とくにリンゴに含まれる「エピカテキン」「ケルセチン」あるいは「ビタミンC」などの抗酸化物質は「一日一個のリンゴは医者いらず」の働きの主役のひとりとも言えるでしょう。

もっとも、「赤い実」の抗酸化作用の仕組みが全て判っているかというと、そうではありません。研究は始まったばかりとも言えます。例えば、桃のポリフェノールの含量はリンゴより少ないのですが、桃の抗酸化作用はリンゴより強いことが判っています。何でもかんでもポリフェノールで説明できるのではない、それが「赤い実」の奥の深いところでしょうか。

それはさておき、活性酸素って何?抗酸化作用ってどんな作用?抗酸化物質って何をするの?言葉だけは知っているけれど、ちょっと専門的すぎて内容がよく判らないという人が多いのではないでしょうか。そこでこれらの質問について、「ホンモノを知る」ことをモットーとする「赤い実の熟れる里」のメンバーのために、できるだけ判りやすく解説してみたいと思います。少し専門的な言葉も含まれますが、最後まで読んでもらえばきっと皆さんの疑問は解決されることでしょう。

1. 活性酸素って何だろう?

活性酸素(スーパーオキサイドラジカル)とひとことで呼ばれますが、実際は一種類のものではありません。O2・-(スーパーオキサイドアニオン, 酸素分子O2に電子がひとつ余計についたもの)、H2O2(過酸化水素)、・OH(ヒドロキシラジカル)など、「反応性に富んだ酸素を含む分子」の総称のことを言います。

もう少し専門的に言うと、他の分子に電子を与え易い、つまり他の分子を酸化させやすい、非常に活発な、酸素を含んだ分子だと覚えてください(化学の世界では、他の分子に電子を与えることを酸化と言います。高校の化学の復習ですね)。そして、この活性酸素は私たちの体の細胞のなかで、いつも作られそして分解されを繰り返していて、よい意味でも悪い意味でもとても重要な働きをしています。

それでもちょっと難しくてイメージが湧かない・・・そうかも知れません。でも読み進むうちに分ってきますから心配しないでください。理解を助けるために、ここではひとつだけ覚えておきましょう。こどもの頃、転んで膝を擦りむいたときオキシフルと呼ばれる薬で消毒しましたね(オキシとは英語で酸素を意味する接頭語です)。このオキシフルの正体はH2O2(過酸化水素)です。

H2O2過酸化水素を傷口にかけると、傷口の組織や赤血球に含まれるカタラーゼという酵素の働きでH2O2H2O水とO2酸素に分解されます (化学反応式では右のように書きます。2 H2O2 →2H2O + O2)。つまりオキシフルをかけるとブクブクとでる泡、その正体はH2O2過酸化水素からできたO2酸素だったのですね。このH2O2O2はそれ自体に強い殺菌作用があります。そして、殺菌作用と同時にあぶくが出る時に一緒に汚れを浮かせて取り出してくれる、これがオキシフルの消毒の正体です。つまり、活性酸素を消毒に使っていたのですね。

2. 活性酸素と生命の起源

活性酸素はたしかに体や細胞にとって危険なものです。遺伝子を傷つけてガンの原因になったり、脳梗塞(脳の血管が詰まって、脳の組織が死んでしまう病気)で脳組織が破壊されるときなどにもこの活性酸素が働いています。日焼けしすぎて皮膚にシミができる、その原因も活性酸素だと言われています。でも、待ってください。生物の体というものは意味のないものはあまり作らないものです。どうしてこんな危険なだけにしか見えないものを生物は体のなかで作るのでしょうか? それは、驚くなかれ、生物の進化の歴史と関係があるのでした。

そもそも「酸素とは生物に有害な分子」なのです。高濃度の酸素に長時間暴露されれば、人間のみならず多くの生物が死んでしまいます。オゾン殺菌などという言葉も知られていますが、オゾンも酸素の仲間です。そして殺菌に使われるくらいですから、生命にはとても危険な分子です。未熟児で生まれた赤ちゃんが救命のために高酸素室に入れられて、不幸にも脳に異常をきたしてしまう未熟児脳症も、この高濃度の酸素が原因なのです。エエッ! 私たちはそんな危ない酸素を使って呼吸しているの? 答えはイエスです。生命の不思議あるいは危うさと言えばいえますね。

さて話は太古の昔にさかのぼらなければなりません。地球が誕生してまもない生命の起源のころ、原始の生命体は海のなかで幸せに暮らしていました。なぜかというと、その頃の陸上は生物にとって危険な高濃度のO2酸素に満ちていたのです。ところがいつの頃かヘソ曲がりのある種の生命が、陸上という新しい生活圏に活動を広げるために、この酸素という危険な分子を、自分自身のエネルギーを作るために活用するという危険な賭けに打ってでたのです。そしてこの賭けに勝った生物、つまり「酸素を使った呼吸」という方法でエネルギーを作り出すことに成功した生物が、母なる海から離れて地上での進化の道をたどることになったのです。酸素は危険な分子ですが、効率よくエネルギーを生み出すのにとても都合のよい、いわば諸刃の剣だったのですね。

こうやって酸素を使った呼吸でエネルギーを作り出すことのできる生物が誕生し、進化してきた末裔のひとりがわれわれ人類なのです。しかし、酸素を使って細胞のなかでエネルギーを生み出す過程(酸素呼吸)では、どうしても活性酸素という危険な副産物(正確にはラジカル中間体)ができることが避けられないのです。文字通り、諸刃の剣といえるでしょう。これが、体のなかで活性酸素ができてしまう理由なのです。そして、地上生活を始めた生物が危険な酸素を使って陸上で暮らし続けるためには、どうしてもこの有害な副産物に打ち克つ仕組み(活性酸素を無毒化する仕組み)を体の中に作り上げる必要がありました。これが後ほど説明する抗酸化機構なのです。

3. 活性酸素は生命を守る働きもある

活性酸素は酸素を使ってエネルギーをつくる呼吸の過程で、どうしても生じてしまう危険な副産物という話をしました。しかし、活性酸素はこの危険なだけの副産物に過ぎないのでしょうか?答えはノーです。実は体のなかで、それも体を守るためにとても重要な働きもしています。

その一例を紹介しましょう。皆さんは体の中に白血球マクロファージという細胞がいて、体のなかに入ってきたバイ菌を食べて撃退してしまうという話を聞いたことがあると思います。実は、この白血球やマクロファージはバイ菌を食べると、自分の細胞のなかでパーオキシダーゼという酵素の働きを使って活性酸素を作りだし、その活性酸素によってバイ菌を殺してしまうのです。活性酸素はバイ菌から体を守るためにとても重要なものだったのです。

また細胞で作られる活性酸素の仲間にNO(一酸化窒素)というものがあります。何だか排気ガスみたいですね。でもまさしくその窒素酸化物のひとつです。このNOは例えば血管内皮細胞という血管の内側を覆っている細胞でNO合成酵素という酵素の働きで作られて、それが血管の壁を作っている血管平滑筋細胞という細胞に働いて、血管が収縮したり弛緩したりという調節もおこなっているのです。専門的にいうと、活性酸素であるNOが、血管内皮細胞血管平滑筋細胞の間で情報を伝える物質(情報伝達物質)として、血圧の調節をおこなっているのです。

活性酸素といえば何でも悪者というのは、行き過ぎた誤解であることが判ってもらえたでしょうか。

4. 活性酸素の撃退法と生命の進化

ところで白血球やマクロファージはこんな危ない活性酸素を自分のなかで作ってしまって、大丈夫なのでしょうか? 神様は驚くべき仕組みを生物の体のなかに作りあげていました。白血球やマクロファージは活性酸素を作り出す酵素とともに、その活性酸素をすぐ無毒化してしまう酵素(スーパーオキサイドディスムターゼSuper-Oxide Dismutase やカタラーゼCatalaseなど)も作っているのです。ですから、バイ菌だけを殺して自分は何ともない訳ですね。

生物がこのようにスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)やカタラーゼなどの活性酸素の無毒化酵素を持っているということが、生物の抗酸化作用の仕組みそのものなのです。もっと言えば、このような無毒化酵素を作り出すことに成功した生物のみが、酸素世界のなかで進化の道を歩むことができた訳です。ですからこのSODやカタラーゼは、人間だけはなく微生物を含めた殆どの生物が持っています。酸素の世界で生きる道を選んだ生物が、何億年という時代を越えて、共通の抗酸化機構を使っている訳ですね。

余談ですが、これら無毒化酵素が体のなかで少なくなったり、出来なくなるとどうなるのでしょうか?ひとつのわかり易い例は、高齢者の皮膚にできるシミですね。これは無毒化酵素の働きが弱ったためにおこる現象です。また、ルーゲーリック病(専門的には進行性脊索硬化症といいます)という、脊髄が犯され全身の筋肉が麻痺してやがて死にいたる高齢者に多い難病がありますが、この原因は無毒化酵素であるスーパーオキサイドディスムターゼが上手く作られなくなってしまうのが原因です。このような病気の存在は、無毒化酵素が生命の維持にいかに重要かということをよく示していますね。

5. 食物と抗酸化物質

ここまで読んできた皆さんにはもう、抗酸化物質とは何かという説明はいらないかもしれません。そうです、抗酸化物質とは「体の成分が活性酸素などによって酸化されるのを防ぐ物質」のことを言います。すでに説明したスーパーオキサイドディスムターゼカタラーゼもたんぱく質(酵素)ですが、立派な抗酸化物質の仲間です。

それでは、このような無毒化酵素が体のなかにあるのだから、抗酸化物質の入った食べ物なんて食べる必要ないじゃないかと思うかもしれません。ところが、そうは問屋がおろしてくれないのですね。活性酸素は体の中のいたるところで、それも四六時中作られている訳です。無毒化酵素だけではそれらを処理することができないのです。また、体の代謝機能が充分に出来上がっていない乳幼児では、あるいは歳をとって無毒化酵素の産生や働きが弱ってくれば、どうしても食べ物の形で抗酸化物質を補給することが必要になってきます。

動物によって抗酸化物質の必要度は異なりますが、私たち人間の場合はビタミンCビタミンEβカロチンなど、主にビタミンの形で抗酸化物質を採ることが必要です。そう、ビタミンCやビタミンEも抗酸化物質なのです。ビタミンCやビタミンEをたくさん取るとガンの予防になると言われますが、それはこれらのビタミンが、活性酸素の働きを抑え活性酸素によって遺伝子が傷つけられるのを防ぐからなのです。

6. 高酸化物質の王様ポリフェノール

それではビタミンを一杯とれば、もう抗酸化物質の入った食べ物はいらないのでしょうか?答えはノーですね、世の中そう単純にはいかないのです。例えばビタミンCなどの抗酸化物質はたしかに活性酸素を無毒化してくれるのですが、それ自身がとても不安定で体のなかで長時間働くことができません。人間が生きて行くためには、体中でできる活性酸素を長期間に渡ってやっつける安定な抗酸化物質も必要なのです。この安定な抗酸化物質の代表がポリフェノールです。ビタミンは速球型のショートリリーフ、そしてポリフェノールは変幻自在、変化球型のロングリリーフというところでしょうか。

さてそれでは安定な抗酸化物質は、どうやったら手にいれることができるのでしょうか?そこで登場してくるのが、果物やお茶あるいは野菜などの植物に含まれるポリフェノールなのです。アダムとイブは禁断のリンゴの実を食べてしまったのですが、どうも悪いことばかりでなくて、禁断の木の実にはポリフェノ-ルが一杯含まれていて、子孫繁栄・人類発展に一役かったといえなくもありませんね。

果物、野菜などに含まれているポリフェノールの最大の特徴は、とても安定な抗酸化物質だということです。ビタミンCなどは熱をかけたりすればすぐ壊れてしまいますが、植物ポリフェノールは大丈夫、例えばお茶のカテキンが有名ですね。思えば、お茶を飲んで、「赤い実」を食べて、野菜の煮物たべてという日本人の食生活は大したものなのです。ファーストフォード文化に汚染されるのは仕方ないにしても、せめてあのアメリカの健康ヒステリーが生みだした愚にもつかないサプリメント食品に、お金を使うのは止めにしたいものです。お茶飲んで、フルーツ食べてれば良いのだ。

7. ポリフェノールってどんなもの

さてここでちょっと化学の勉強をして貰います。「亀の甲」なんて嫌いだなんて言わないでください。ポリフェノールがどんなものかを知るためには、ダラダラと長ったらしい文章の説明より百聞は一見にしかず、構造式で理解してしまうのが近道です。簡単ですから心配しないでください。

ポリフェノール(多価フェノール)とは、同一分子内に2個以上のフェノール性水酸基(芳香族環に結合した水酸基)を持つ化合物の総称です。わからない・・・・それでは下のポリフェノールの代表であるカテキンケルセチンの構造式を見てください。

芳香族環とはホラ例の「亀の甲」のことです。上の図を見ると亀の甲にいっぱい水酸基(-OH)がくっついていますね。何のことはない、亀の甲にいっぱい水酸基がくっついた物質がポリフェノールだと覚えておけば良いのです。

じゃあ、ポリフェノールはどうして抗酸化作用があるの?ここから先は相当専門的な化学の知識が必要になりますから、簡単にとどめます。分り易く言うと、亀の甲にくっついている水酸基(-OH)が活性酸素にくっついている余分な電子を引き受けて、活性酸素を反応性のない(酸化作用のない)分子に変えてしまうのです。これだけ覚えてくれれば十分です。

8. 赤い実に含まれるポリフェノール

それではフルーツにはどのくらいポリフェノールが含まれているのでしょうか ? 品種によって違うので一概には言えませんが、モモで30 — 80mg/100g、リンゴで40-70mg/100gというデーターがあります。具体的には、リンゴではエピカテキンケルセチンと呼ばれるポリフェノール、モモではケルセチンなどに加えてタンニンアントシアニンなどが含まれています。アントシアニンは赤ワインのポリフェノールとして有名なものですね。

さて冒頭でも書きましたが、赤い実のポリフェノールは確かに抗酸化作用の主役のひとりですが、これで全てが説明できる訳ではありませんから注意してくださいね。また、ポリフェノールの含量が多いからと言って、その食物の抗酸化作用が強いとも限りません。まああまり難しく考えないで、季節季節の果物を美味しくたべる、季節が悪い時はドライフルーツやナッツで補うというように、気楽に考えて欲しいものです。

9. ポリフェノールは食物から摂ろう

さて抗酸化物質の説明を終えるにあたり昨今の行き過ぎた健康ブームに苦言を呈しておきましょう。ポリフェノールが体によいとなると猫も杓子もポリフェノール、得たいの知れないものがサプリメントと称して出回っています。賢明なる「赤い実の熟れる里」のメンバーは、こんなものに惑わされないことを祈ります。

たしかに果物などの植物に含まれるポリフェノールは安定で熱にも強いものが多いといえます。でも安定とは言え、ポリフェノールはもともと反応性の高い物質ですから、裸のままではそれ自身が酸化されて壊れてゆきます。というよりも、自分自身が酸化されることで体の大事な成分が酸化されるのを防ぐのが、抗酸化物質の抗酸化物質たる所以です。ところが不思議なことに、その仕組みはまだよく解明されていませんが、その反応性の高い(酸化されやすい) 抗酸化物質が、果物や野菜などの食べ物のなかにあると安定なのです。安定なだけでなく、人間の体に吸収されやすく、また人間の体のなかで抗酸化作用を発揮しやすいのです。

神様は食べ物からポリフェノールなどの抗酸化物質を摂るようにこの世をつくっている訳ですね。安易なサプリメントなどを買ってよしとする、悪しきアメリカ文化の横行には警鐘を鳴らしておきたいと思います。大体、どう考えても体に良いとは思えない脂肪タップリのハンバーガーやフライドチキンやピザばかり食べて、それをサプリメントで補うなどというのは、食文化の形成と無縁に発展した国民のなれの果てに過ぎません。やすっぽい宣伝や底の浅い健康ブームなんかに騙されないで、季節季節の新鮮な野菜や果物をたべる日本人本来の食生活、これに勝る抗酸化物質の補給方法はないと思ってください。